僕が運動指導で関わっている保育園の中に、引っ込み思案な女の子がいました。
その子は年中さんにあたるのですが、今年度から保育園に通い始めた女の子です。
初めての集団生活ともあって運動指導の運動あそびの時間に限らず、自分の心を打ち明けるのが苦手な様子でした。
僕自身もそうですが、担任の先生もその子の声を聞くことは、1日でも数回しかないということです。
ですが、お母さんによると自宅ではたくさん話すということなので、集団の中での過ごし方がまだ分からないという悩みを先生達も気にかけていました。
ほとんど感情を表さないその子に対して、何とかできないかな?と僕自身も考えることが多く、そこでとある方法を試してみることにしました。
それがタイトルにもある「ヒーローポーズ」です。
ここでいうヒーローポーズとは、背筋を伸ばして胸を張り、少し大股で腰に手を当てるポーズのことです。
実はこのポーズですが、研究者の中では「パワーポーズ」とも呼ばれ、著名人や実業家によく見られるポーズと言われており、自信を高めたり、より肯定的に自己認識を促すことできるとのことです。
なんか嘘っぽくも聞こえますが(笑)
例えば、落ち込んでいるときや悲しいときはうつむきがちになったり、怖いときは首をすくめて背中を丸める姿勢を取りませんか?
反対に幸せを感じているときや物事がうまくいっているときは、自然と胸を張り、背筋が伸びているかと思います。
うつむいている人にどうしたの?と聞いてみると、こんな良い事があった!って話をする人はほとんどいないですよね?笑
つまりは、姿勢が気持ちに影響を与えることがあるということです。
僕はこの心理学的な作用を運動あそびにも活かしてみようと思いました。
具体的には、運動あそびを始めるあいさつとしてヒーローポーズ(パワーポーズ)をとって、運動あそび頑張ろー!エイエイオー!を子ども達みんなで行なってみることにしました。
その際に、エイエイオー!の掛け声をしたい子を募集して、みんなの前に立ってもらうことも同時に行いました。
僕の中でひっそりと始まった「ヒーローポーズ大作戦」の最大の目的は、ヒーローポーズやエイエイオーをさせたいということではなく、自己表現をする機会を作ってあげることです。
その他にも、お友達と交代する際に交代する子の名前を呼んでから交代してもらったり、少人数で代わりながら行うメニューのときは、点呼のように数字を言いながら出番を迎えるなど、小さな工夫を取り入れてみました。
本心では声を出すのが得意じゃないのもその子のキャラクターと思うこともありましたが、小学校やこれから大人になるにつれて、自分の気持ちを伝えることはどうしても必要になる場面も出てくると思うのです。
また自宅ではたくさんおしゃべりするというその子の一面を信じながら、3ヶ月ほど「ヒーローポーズ大作戦」を続けてみたところでした。
いつものようにヒーローポーズとエイエイオーの掛け声のリーダーを募集したところ、みんなより少し遅れてではありましたが、その女の子が手をあげて名乗り出てくれました!
心の中で「おぉ!!」と思いながら、その子を含め、数名の子にリーダーをお願いし、しっかりと口を開き掛け声をしてくれたのです。
その日の運動あそびを終えて担任の先生達との振り返りでは、「○○ちゃんが自分で手をあげてましたねー!」「見ていて感動しましたー!」と僕らの心を明るくしてくれました。
それ以来、笑った表情も増え、自分から仲の良い子と話しかけたりと別人のような元気な姿を見せてくれています。
一気に成長した姿に、こちらが驚かされるばかりです。笑
もちろん、今回のヒーローポーズ大作戦だけでなく、その子の環境に対応しようとする頑張りや先生達と一緒に生活するお友達の関わり方全てがもたらしてくれた嬉しい変化だと思います。
ただ僕らの仕事は運動を通して、身体だけでなく心の成長も伸ばすことを手伝う仕事だと再認識した出来事となりました。
子ども達のより良い変化へと繋げるために、さまざまなアプローチから届けられるように関わっていけたらと思います。